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地図と記号 5

 

 さてあなたはもう一度読み返す読者だろうか
 あなたの本棚にはどのように本が並んでいますか それぞれ寸法の高低によるものか 手に入れた順なのか 作者別なのか ジャンル分けされているのか いずれにしてもあなたはいつでも探し出すことはできる かも知れない おそらくあなたにとってはあらゆる本が ひとたび読んでしまうと ある特定の機会に行ったその読書体験と同一化してしまう そしてそれを記憶の中に大切にしまい込むのと同じように ものとして自分のそばにおいておくのが好きなのだ あなたは本の中で 図書館のような形態を取らぬその全体の中で しかしながら死んでいるあるいは眠っている部分 とゆうか読んでしまったり稀には読み直しをして もうほっておかれたり または読んでもいないし読みもしないだろうけれども とにかく取っておいてある したがって埃をかぶった本と 生きている部分 今読んでいるか 読むつもりでいるか またはまだ手を切っていないか それともそばに置いておいていぢるのが楽しい本とに区別することができる
 ところがこの断片は断片とはゆうもののページの端が裁断されていない それがあなたの待ちきれない思いを逆なでする障害になっている それを切り開く時間の矢を5本手に入れたとしても その指し示す方向はそれぞれ違う方向を向いているかも知れない そのために地図が必要だったのだ 四方向ともうひとつの5方向目とゆうのはなんだろう 時間なのか 水(北)火(南)木(西)金(東)に垂直に交わる月土(天地)なのか それは世界を回転させる縦軸なのか そもそもX軸とY軸の交点はゼロなのか

 

 アイテムを手に入れたあなたはもう一度最初のページを開く

 

すると

 

 最初のページからあなたは今手にしている断片が昨日読んでいた断片とは全く違うものであることに気づく

 

 第5章

 

 あなたはどうしますか

 

━─━─━囗━─━─━─━─━─━─━
       ↓

 

 1 ****
 2 ****
 3 ****
 4 東へ行く
 5 ******

5-2 

 

 選択の余地はなかった その街のど真ん中のビルの上には観覧車があった それを目印にしたわけではなかったのだがその待ち合わせた場所には 時計を持った兎ではなく猫が居た 猫はあなたを案内する 訪れた酒場にはディオが居た これはラスボスか しかしラスボスなら時間を自由に操られてしまうでわないか カウンターのうしろの冷蔵庫にはオートバイの写真が貼ってあった それは金田だったのか鉄男だったのか たしか前の店では百鬼丸だった あなたはスピリタスを呷りながら時間を弄んでいると 別な客が入ってきた ビオランテだった ビオランテは昔のつれあいがあなたに似ているとゆう あたしも元はフツーの薔薇だったのよ でわ12時過ぎに何かを食べてしまったのですか とあなたは問う それについてはあたしの店でお話ししましょうとまたビオランテはゆい あなたは懲戒の部屋へ招かれる そこにはたくさんのコアな客が待っていた それぞれが特殊サーブを繰り出す あなたがその全てを打ち返し 店を出た時 猫はニヤニヤ笑いだけを残して消えていた

 

 そうか 今日は 聖灰曜日だったのか

5-3 

 

 再びその街を訪れたのは日本最大とゆうプラネタリウムを観たかったからだ 前回も入れなかったが今回もいっぱいだった 竜頭を巻き戻すと隣のラボに初老の教授とひとりの学生が月面写真の前で話をしていた

 

「かつて月は地球の大変近くにあった これをだんだんと遠くへ押しやったものは潮である すなわち他ならぬその月が しかもその運動によって地球のエネルギーが緩慢に失われている潮である」

 

 その教授はしたり顔で説明している あなたは チョットイーデスカーと割って入った

 

「月が元もと地球のたいへん近くにあったとしてそれはどこから来たものですか 教授はジャイアントインパクト説をどうお考えでしょうか」

「それならよく知っておるさ!」

「私の考えはこうです 月曜日にお風呂を沸かし火曜日はお風呂に入り 水曜日に友達が来て木曜日は送っていった 金曜日は糸巻きもせず土曜日はおしゃべりばかり ここに謎があるんです」

「それがフェイトンと関係づけられるとでもゆうのかね お風呂を覗こうとしたのは水曜日ではなかったのか」

「それは運動状態の異なる観測者であったからです 水曜日には別のところにA点があったのです」

「キミは重爆撃が何曜日に起こったと思っているのか」

「少なくともクリスマスにはありませんでした」

「今日は糸巻きの日だからな おしゃべりはまた明日」

「ちょっとお待ちください フェイトンを破壊したのはニビルでしょう 月の6つのラグランジュポイントのうちトロヤにあったのはリリスですか」

「トロヤ点は実は二つあるのだよ リリスはアダムからルシファに乗り換えておる ジャイアントインパクトではリリスではなくテイアなのだが」

「テイアは厳密にはタイタン族ではありません またフェイトンはテイアの孫に当たります」

「フェイトンはパエトンともゆうが撃墜したのはユピテル(ジュピター)である 頼んだのはケレス なぜならばパエトンがおとんであるアポロンの火車で勝手に暴走したからじゃ だいたいからガイアのおばんはゼウスが天帝になってからオモロなかった」

「アルテミスが黒幕とは考えにくいですが 実行犯が従兄弟のゼウスならおかんのテイアが娘や孫をかばっているのですか」

「ところで一週間の謎の 土・日はどちらが最後なのか最初なのかね」

「そうか 時間の矢はどちらを指し示すのでしょう」

「ぷふぃ」

「教授 あなたのお名前を教えてください」

「Qfwfk である キミは?」

「わたし? わたしは・・・誰だったのだろう」

5-4

 

 読書は孤独だ 二人で居る時も本は一人で読むものだ だがそうだとするとあなたはここで何を探しているのか 別の読者が読んでいるページに潜り込み その貝殻の中に入り込もうとゆうのか それとも男性読者と女性読者の関係は二つの別々な貝殻のようなもので それぞれ排他的な二つの経験を部分的に比較対照することを通じてしか交流しあえないものなのか 読者のあなたが何者でありどのような肖像を持つのかはあなた自身の判断に任せよう 重要なのは あなたがいま 画面の前でくつろぎ この断片に没入するために完全な心の落ち着きを取り戻そうとして 脚を伸ばしたり 引っ込めたり また伸ばしたりしている精神状態なのだ 今この同じ瞬間に別の読者がいることを考えてみなさい ところが観察者の鏡像は同時に存在しないのだ 別の空間と別の時間を異時同図にすることは可能だが この断片は道具に 連絡の手段に 出会いの場になったとゆうことなのかとゆうと それだけのことならそれほどあなたに影響は及ぼさない それより読書の作用に何かが加わったのだ

 

 

 男性読者よ 今あなたは読まれているのだ

 

 女性読者よ 今あなたは読まれているのだ

コーダ 5-dy(x)/dx=y(x)-K

 

 男性読者と女性読者よ 今やあなたたちを二人称複数で呼ぶべき時は来た しかしこれも甚だ不条理な作業だ とゆうのはあなたたちをひとつのものと見做すに等しいからだ 過去と現在と未来のどこかで判別しがたいほど縺れあったあなたたちのことをゆうているのだ 三種類のK中間子のうちで中性K中間子だけが時間の対称性を破る あなたたちの身体が永遠と瞬間の間で様々な感覚のより横溢した結合を求め 粒子と波動の間で鬩ぎ合う動きや振動を伝え かつ受け 空虚と充実を浸透させあい また精神活動も能う限りたがいの合一を求めている今は もう あなたたちを時空連続体として話しかけても良いだろう あなたたちが形成しているこの連続体の行動範囲あるいは存在様式を定める地図ができたのだ あなたたちのこの一体化はどこに赴こうとするのか? あなたたちのヴァリエーションの中で反復される主題とは何か

 それは自分の潜在的感覚をなにひとつ見のがさず 相互的反応状態を引き延ばしうる 冷たい微分方程式の集中した緊張感なのか それとも他愛ない耽溺 愛撫しうるまた互いに愛撫したい時空の探索 果てしなく触覚を誘う表面を持った湖の中への溶解なのか すでに観測者にとっての時間の歩みを伸ばしたり縮めたりしたのであり いずれのバワイにしてもあなたたちは他方に対する一方の機能においてしか存在しないのだ これは運動の第三法則とは違う

 しかし それを可能にするためにあなたたち各自の自我は消失するよりもむしろ精神的空間の空白をあますところ無くすっかり占め 重力だけが5番目の方向に最後の一滴まで使い果たす必要があるのだ 要するにあなたたちのしていることはとてもすてきなことだが 記号的にはなにひとつ変わりはしない あなたたちがひとつの完全数的なあなたたちとしての姿をより一層あらわにする時

 

 矢はどこを指し示しているか

40年以上の時の流れを越えてその店はあった

あなたを覚えているわ とママは笑った

現在も進行形

 第12章 ダルセーニョ

 

 男性読者と女性読者よ 今やあなたたちふたりは夫婦だ 大きなダブルベッドで平行して読書している
 イラムは読んでいる本を閉じ 自分の枕元の明かりを消して

 頭を枕の上に落として ゆう

 

「あなたも明かりを消したら?」

 

 そしてあなたはゆう

 

「もうちょっとだ もうすぐ地図が完成するのさ」

 

 

 コーダXY


 5-dy(x)/dx=y(x)-M

 

 ぼくたち二人は互いに一方が片方によって読まれる対象となり互いに相手の中に記号化されていないその物語を読んでいる
 今日 男性読者であるぼくと女性読者であるあなたが同じベッドに横たわるとするなら ぼくたちがいっしょになり ちゃんとした夫婦のように同じベッドに横たわるとするなら まずはめいめい枕元の明かりをつけて自分の記号を探すかも知れない それが平行した二つの読書ならそのうち眠気を呼び寄せる しかしぼくたちは明かりを消し 別々の世界に引き戻されることもなく そして異なる夢があなたを一方へそしてあなたを別の方向へとまた引きずっていく前の束の間のあいだ あらゆる距離の消滅した虹の中に入っていくのだ こうした和合の展望を皮肉に解釈してはいけない

 

 これよりも幸福なカップルのどんなイメェジを提示できるとゆうのです?

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