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地図と記号

 

 

 固定客はあなた


 あなたが女性読者なら仮にX あなたが男性読者なら仮にY としよう

 

あなたはイラム・カルチァーノの新しい断片を読み始めようとしている 楽な姿勢でどうぞ
本を読むのに理想的な姿勢とゆうものはなかなか見つけにくいものだ

 

さて あなたは何を待っているのです?
目が疲れないように明かりを調節しなさい

 

あなたは特にこのF本からなにか特別なものを期待しているわけではない
アクセスしたら一覧の上の方にあっただけ

 

 ラーメン 飼い犬の散歩 バードウォッチ 占いアンケート PCエンジン 開店時間 格闘動画 スピン 標語集

 

などからなる密集から城の塔の下にたどり着いたところだ

 

そこには

 

 ずっと以前から読む予定の
 長年探していたが見つからなかった
 現在没頭しているかもしれない
 必要な折にはまたすぐ手の届く
 この夏のためにとっておいた
 本棚の他の本と並べておきたい
 はっきり理由はわからないが不意に好奇心をそそられるものがある

 

とゆうことに気づいたようですから 読み飛ばさずにまだ読み続けているわけです
もう一度別なページをめくっても良いですが 教壇の先生の目がこちらを向いていますよ

不謹慎だと思いませんか

今はじっと我慢して家に帰るまで待つ方が と思いながらもまた開きましたね

 

でわ

あなたは最初のページの
最初の数行に取りかかる準備ができました

 

 

 

第1章

 

物語はある駅で始まる
       ↓
━─━─━囗━─━─━─━─━─━─━

 

あなたは

 

この駅に降りたところですか

 

この駅から列車に乗るところですか

 

 読者のあなたはプラットフォームの屋根の下で私の視線が古い駅の円い時計の槍のように鋭くとがった針の上に まるでその時計を後戻りさせ その円形のパンテオンの中に生気無く横たわった過去の時間へと逆行するかのように じっと注がれるものと思っていましたか? いったい誰があなたの時計にバイナリ信号を隠して表示させられると思っているのですか?

 

 通知が来た?

 

 それは良かったですね

 でわ 次の頁に進みましょう^^

1-2

 

 駅はどれも似たようなものだ 待合室でトランプをしている乗客たちの中にあなたが居るのは不思議なことではなかった 入ってきた男を振り向いたあなたは遠い未来に旅立ちへの予感を感じたかも知れない 男は煙草を吸えるところを探して行ったり来たりしていただけなのだ 私は駅というものがいつも張りめぐらしている非時間的な罠に捕らわれている それはすっかり電化されたはずなのにまだ駅の空気の中を浮遊している ところであなたはすでに2頁ほど読み進めてきたわけだが そろそろこの駅が昔の駅なのかそれとも現在の駅なのかはっきりさせるべきだろうと思っている ところがこの断片はまだ曖昧模糊とした中を最小公分母に約分された経験の一種の中を揺れ動くのだ 気をつけなさい これはあなたを巻き込むための手管なのだ 罠なのだ 失われた時と場所を取り戻すような感覚を与える昔の駅への到着なのか それとも現代において生きる喜びを味あわせてくれる照明なのか 今はまだ仄暗い明かりの中に煙草の吸えるビュッフェのテェブルの上には2枚の切符がある この駅のビュッフェは中継ステーションだ もしも私がラクタであるとして私が指示を受けるべき あるいは連絡を取るべき相手はいったい 今 何処にいるのか 私が他の人間に左右された存在であることは確かだ それは込み入った設定なのか 周到な罠なのか 私は複雑なゲームの単なる歩のような存在かも知れない 巨大な装置の小さな歯車 そしておよそ5時間ごとに痕跡を残さねばならないのだが それがどのような形でなければいけないかは 全てあなたのこれからの行動によるのだ

 

 進むのか 戻るのか

 

“Ecco, pensò Amerigo, quei due, così come sono, sono reciprocamente necessari. E pensò: ecco, questo modo d'essere è l'amore. E poi: l'umano arriva dove arriva l'amore; non ha confini se non quelli che gli diamo.”

1-3

 

 「私」は人目を引かない人物だ 余計にはっきりしない背景の上に書かれたはっきりしない存在だ 読者が「私」をラクタではないかと見てもそれはあなたが知っている二三の事柄の一つに過ぎないだけだ この知られざる「私」の中にあなた自身の一部を付与したいという刺激をあなたが感じるにはそれで充分だ 作者にもまたそっとしておきたい部分と見せびらかしたい部分とが混在しているとすれば いつも書いている「ぼく」とゆう一人称ではないところに何か意味があるのだろう 作者が自分自身について語るつもりが毛頭無いとしてもその人物を人目に隠し その人物に命名したり叙述したりしなくてもいいようにするために「私」と呼ぶことにしたことによって とゆうのも他のどんな名前や属性も「私」とゆう裸の代名詞に比べればより限定的だからであるが 「私」と書くとただそれだけのことで作者はこの「私」の中に自分自身の一部を 作者が感じるかあるいは感じていると思っていることの一部を挿入したいとゆう刺激を感じているのだ 今「私」と同化することほど容易なことはあるまい

 

 お見事な計画

 

 ただしそれをぶち壊すのになんでもない躓きの一つで事足りるほどまったくお見事な計画だ

 

 さて 明日の朝までは1本の列車も発車しないこの駅の最後の乗客として終電を見送ろう

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