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地図と記号 3

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水曜日 朝

 

 眼が覚めるとすぐに私は誰が読むことになるかはわからないこうした文章の草案を考えながら屍の姿勢でぢっとしている ミヤカに貰った白内障予防の目薬をさす 下口唇の内側はあいかわらず下顎前歯部の叢生にあたって知覚異常を起こしている おそらくこの狂人地図は長い年月を経て われわれの記号が変化を蒙り 今私が用いている語彙や言い回しがすたれたものや意味の曖昧なものになってしまったのちに 陽の目を見るのだろう とゆうのは文字に記された言葉や語彙や文章を取りだし 他の記号に書き直したり 空白を編集して切り貼りしたりするのだが 一方私は毎日私の前に縁起する様々な事柄の中に世界の私に対する意図を読み取ろうとし そしてそうした事柄の中にずっしりと詰まって隠されている暗示の重みを記号に置き換えうるようなすべはないと知りながら 手探りで進んでいるのだから 私はこの地図に漂うこうした予感や疑惑が これを読む人に私が画いていることを理解するにあたっての偶然の障害としてではなく その本質そのものとして受け取られることを望むのだ そしてもし根本的に改変された精神上の修正を初めとして私の思考の推移が それを追おうとする人たちにとって把えどころのないものとして写るとしても 重要なのは いろんな空白の行間で私を待ち受けているものの把えがたい意味を読み取ろうとする私の努力がその人に伝わって欲しいとゆうことなのである

 第3章

 あなたはどうしますか

 

━─━─━囗━─━─━─━─━─━─━
       ↓

 

 1 ****
 2 西へ行く
 3 北へ行く
 4 東へ行く
 5 ミナミへ行く

3-1

 5ともうひとつ2が同時に選択されました 筋ですね

 昔 いきなり258と切り出して369待ちの9で一通とゆう手をあがったことがあります

 たとえば配パイ122455788だったら最初から染めとけば?ちゅうの

 第一打に字牌を打ってはならないとゆうのは桜井先生の教えではありますが
 あえてここに南ではなくミナミと書いてあるかがポイントです

3-2-B

 

 来期は西南だよ 期末にはいつものようにハル㌧からの書簡が来る もうこの戦場もずいぶんになる 死んでは生き返り 死んでは生き返り 毎期戦場にかり出されている

 思えば数々の同盟を渡り歩いた まず印象に残るのは梁山泊での革命 そのとき最後までつきあったのはクポだがのちに戦線を離脱した その後の流れからで 一番長い付き合いが Cruz del Sur で知り合ったハル㌧こと唐華である 後に銀河グループになる

 もうひとり私とたった二人で大同盟とケンカした仲間フローターとも戦友付き合いは長い 毎日毎日爆撃の嵐の中を塹壕を掘ってオセロゲームの繰り返しをしていた ある日 朝からいつもの爆撃がない時があったが それはクリスマスだった そのとき私はF県にいた

 ハル㌧とは銀河になる前に 遠隔盟主として別の方角に単身赴任を任されてからの付き合いだ 弱小農耕同盟を外敵から守るための非常手段であった おそらくそのとき知り合ったのが八重とゆきひめだったと記憶する 彼等も今は戦線を離脱している 他にも杉下や李徴やうさこや遠雷など戦友は沢山いたが実際に面識のある仲間はいなかった

 そのハル㌧から個人的なオフミの誘いが急にあったのだ

 新幹線から降り立ったのは 西方の地 広島 彼は体格の良い強面の美男子とゆう印象からはかなりはずれたが お好み焼き屋での会談は楽しかった 自分が営む会社が非常事態でゲームどころではないとゆいながらあれやこれやと裏話に花が咲いた 今も戦友である

 

 ところでここまでの経過で男性読者か女性読者かは記載上特定はしていなかったが ボルタック商店で出会った二人は旧知であったようだ 人称が入り交じるのは意識的な部分もあるが これが濃縮小説であるために 色んな局面に従って 何かを巻き起こし 形成し 打ち立て 様々な型に従って あるいはそれを通じて人間関係にそれを経験する意義を付与する様々な精神上の型に従って 如何様にも変化している 当初はもっぱらこの断片の読者に同化し易い男性読者にとっての可能性をまず広げてきた 前項で女性読者もようやく登場したのでその肖像を見てみると あなたはボルタック商店で自室の本棚の壁から剥がれるようにして現れた 本棚の後ろから誰かが本を突き落としたからだろうか あなたのIEはあなたが読書する場所であるから あなたの生活に於いてこの地図の占める位置がどんなものであるかを示そう 地図はあなたが外の世界を遠ざけるための防御陣地か 麻薬のようにその中に耽溺する一種の夢なのか その次元を増幅しようとしている外界に向けて架けられた橋なのか それを知るためにはまず風呂を覗いてみることだと この男性読者は心得ていた

 

 

 3-2-A

 

 その前に立ち寄ったのはうみべのまちだ 

 切り立つ崖から身を乗り出すようにその部屋はあった

 陽が暮れて向こうに見える小島との遊覧船も終了し

 あたりには闇が立ちこめた

 テラスの左側には露天風呂があった

 露天風呂のある部屋をわざわざ探してくれたのはあなただ

 テラスで海を見ているとさざ波の音に混じって

 あなたが湯浴みする音が聞こえた

 首を左に回せばそれは覗けるのだが

 グラスにはまだワインが残っていた

 もう少しすれば真白いシーツの海に仄暗い明かりの中で

 あなたの身体が浮かぶ

 朝まで漕ぎ出すこともゆっくり出来る

 もう幾度となく夜を重ねたとゆうのに

 ぼくの指は今もあなたの門を探して打ち震えている

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