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Marbre

 ぼくはすっかり服を脱いでしまっていた ここは辺鄙な海岸で訪れる人も少なかったからだ 遠くに見えるコマツ岬から波打ち際が円弧を描いて続いているのだが この構図は そう 初めて見たのは1968年つまりぼくが15歳の時だった 東京国際版画ビエンナーレ おそらく画家である母の所蔵する美術手帳かみづゑで見かけたのだろう 岬に続く小高い山の頂には奇怪なオブジェがあったがあれはなんだったのか さらに何年も経ってからぼくがそこにこうもり傘を画いたのはミシンを得たからである 小さな極大であった ♭


 その前の1989年のガウディの城へは行けなかったのだ それは禍根を残したが取り返すことができたのはゆうに24年の歳月が流れてからであった

 ぼくが年に数度は訪れる都会の喧噪の中で季節の上に死滅する人びとから遠く離れてこの身をしばし委ねていた時 その再会があった

 

「橋」

 

 ぼくは海の世界と陸の世界とを別つ二つの境界線のことを考えていた 一方ははっきりしていて 陸地が泡の総縁の下に飲み込まれて消えてしまう線 もう一方は 遥かに容易に見分けがたく海から生じた塩が陸地に染みこんで植物の自生が妨げられている線 ぼくはその一つの世界と他の世界の中間であり双方の性質を帯びている場所に居た そこがその場になるとゆう予感はまったくなかったのだが 様々な歯車が勝手に動いてたまたま全てがゼロの位置に同時に集まったとゆうことだ

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